ホーム > 財産継承ニュース2020春号
贈与のメリットと贈与分岐点

平成27年から相続税の基礎控除が40%引き下げられ、死亡者に占める相続税の課税対象者の割合が4%強から 8%強に倍増しているため、生前贈与による相続対策への関心が高まっています。
生前贈与と相続税の関係につ いて確認するとともに贈与分岐点を見てみましょう。

(1)贈与税は相続税より税率が高い

贈与税の税率と相続税の税率はそれぞれ速算表のようになっています。 10%の税率が適用されるのは、相続税では「法定相続分に応ずる各人の取得金額」が1,000万円までに対して、贈与税は200万円までです。
仮に相続または贈与で1,000万円を受け取ったとすると、税額(基礎控除後)は、相続税が100万円であるのに対して、贈与税は「20歳以上の者が直系尊属から受けた場合」は177万円、「それ以外の場合」は231万円となります。
同様に3,000万円を受け取ったとすると、税額は、相続税が400万円であるのに対して、贈与税は「20歳以上の者が直系尊属から受けた場合」は1,035.5万円、「それ以外の場合」は1,195万円となります。受け取る金額が大きくなるほど、相続の場合と贈与の場合の税額の差は大きくなります。

【相続税の速算表】

【贈与税の速算表】

A: 20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合の税率(特例税率)


B :A以外の贈与の税率


(2)実質負担割合で出較検討する

相続税の税率よりも贈与税の税率のほうが高いのですが、だからといって贈与しない方がよいということではありません。
表1は相続税の課税価格と配偶者及び子の数に応じて相続税がいくらになるかを、法定相続分によって取得した場合の一覧表です。
例えば課税価格が1億円で、配偶者と子2人の場合には315万円となり、負担割合は 3.15%です。
160万円を贈与すると (160万円 -110万円) xlO%=5万円  5万円÷160万円=3.125 %となります。 160万円まで贈与しても相続税の負担割合より有利ということになります。
課税価格5億円で配偶者と子1人の場合には、 7,605万円の相続税額となり負担割合は15.21%です。
しかし、子の相続分のうち1億円部分には40%の税率が、 2,900万円の部分には45%の税率が適用されています。
贈与税の実質負担割合が40%から45%になったとしても相続税と比較して不利になりません。
3,000万円贈与されても贈与税額は 1,035.5万円 (20歳以上の直系卑属の場合)で負担割合は34%強ですから、まだ有利ということになります。
とはいえこれは理論値であって、こんなに大きな税負担で贈与をする方はほとんどおられません。

(3)多くの人に長期にわたって贈与する

いくら財産が多くても多額の贈与税を支払ってまで財産を贈与することは超資産家を除いて現実的ではありません。
やはり110万円の基礎控除の範囲内又は数百万円程度の生前贈与を、子や孫などできるだけ多くの人数に長期にわたって行う方法が現実的で効果が高いといえます。

(4)評価額が確実に上昇する高額資産は相続時精算課税による贈与

毎期多額の利益を計上している非上場会社の株式や、数年の聞に市街化調整区域から市街化区域に編入の可能性のある土地など、将来評価額が確実に上昇する財産で高額なものは、相続時精算課税による贈与が考えられます。
2,500万円までは贈与税がかかりませんし、超える部分には一律20%の贈与税の納付ですみます。
例えば、土地の評価額が3,000万円のときに相続時精算課税で贈与して、贈与税を100万円支払い、贈与者の死亡時にその価額が5,000万円に上昇したとします。死亡した贈与者の相続税の課税対象となるのは 2,000万円で、相続税支払時に相続税額から100万円を控除して納税します。
結局、元の3,000万円は贈与税も相続税もかからずに財産を移転できたことになります。

[表1]相続税額の早見表
(相続人が配偶者と子の場合。配偶者の税額軽減により、配偶者の税額は0)




第二次相続を見すえた配偶者への遺産分割とは?(その1)
小規模宅地等の特例を選択する場合の留意点

共同相続人が仲良く遺産分割協議をできる場合には、相続開始後であっても相続税の負担を軽減させることができます。共同相続人の中に配偶者がいる場合、第二次相続の負担軽減などを考慮した遺産分割の工夫の範囲が広くあるため、第一次相続における遺産分割の工夫は第二次相続対策の出発点といえます。

(1)相続税は親の世代から次世代へ財産承継するときに課される

相続の基本は、人の死亡によるその人の財産の次の世代への承継であるといわれています。実際には、同世代である配偶者への相続や同じ世代の兄弟姉妹のほか、先の世代の親への相続もあります。
夫婦間の相続においては、配偶者の税額軽減制度が設けられていることから、配偶者が相続税を納税しなければならないケースはあまり多くありません。一方で、配偶者と子のいる相続の事例は多くあります。
これらの事例においては、親の世代から子の世代へ財産が承継されるときに子に対して相続税が課されることとなり、子の世代にすべての財産が承継されて初めて相続税の納税義務は完結します。

(2)配偶者がなにを相続すれば良いのか

配偶者が相続により財産を取得する際、第二次相続までに価額が下落するような財産を選択すれば、第二次相続の相続税が軽減されます。例えば以下のような財産です。


  • @ 評価額の下落することが見込まれる株式等(株式を類似業種比準価額で評価する会社においては、死亡退職金の支給に伴い1株当たりの利益金額が小さくなることもある)
  • A 現金預金等の消費される財産

また、相続税の負担軽減効果だけに目を奪われることなく、残された配偶者の生活の安定を図ることができる財産も優先して相続されるべきでしょう。
日々の生活に密着した居住用不動産(または配偶者居住権の設定)、現預金、または安定した収益を生む不動産などを相続すれば配偶者の老後の生活は安心です。

(3)小規模宅地等の特例を選択する場合の留意点

小規模宅地等の特例の適用を受けることができる宅地等が複数ある場合には、どの宅地からこの特例の適用を受けるかは相続人の選択に委ねられています。
多くの場合、限度面積調整後の lu当たりの評価減の金額が最も大きくなる宅地等から優先して選択することが、相続人にとって有利になります。しかし、第二次相続までの通算相続税額を考慮すると、配偶者が取得した宅地等から小規模宅地等の特例の適用を受ける場合と、そうしない場合とでは相続税の負担額に大きな差が生じます(設例参照)。
設例のケース1とケース2を比較すると、第二次相続まで通算した相続税額はケース1の方が4,820万円(10,320万円-5,500万円)少なくなります。この結果から、配偶者が相続した宅地等にはこの特例の適用を受けないようにした方が、相続税の負担は軽減されることがわかります。
このように、小規模宅地等の特例の選択にあたっては第二次相続まで通算した相続税額を考慮するようにしましょう。

【設例】
1.被相続人:父(令和元年12月死亡)
2.相続人:母・長男
3.相続財産:
 ・A土地 (400u)相続税評価額2億円(小規模宅地等の特例適用前)
 ・B土地 (400u)相続税評価額2億円(小規模宅地等の特例適用前)
・その他の財産 相続税評価額1億6.000万円
A土地及びB土地は、いずれも特定事業用宅地等として母又は長男のいずれが相続しても小規模宅地等の特例 (400uまで80%減)の適用を受けることができるものとします。
※下表の赤枠内は特例適用後の値
※母の固有の財産はないものとする


〈ケース1〉第一次相続で長男が相続したB土地につき小規模宅地等の特例の適用を受け、減額後の評価額を基に母が1/2相続する場合



〈ケース2〉第一次相続でが相続したA土地につき小規模宅地等の特例の適用を受け、減額後の評価額を基に母が1/2相続する場合



〈ケース別相続税額〉


第一次相続で長男が相続した土地に特例の適用を受けたケース1の方が通算した
相続税額は少なくなる!


相続法改正による相続・贈与への影響(その2)
遺留分支払いには相続税以外の税金がかかることも!?

お客様:  先生、民放の相続税法が改正されて、遺留分制度というものが見直されたと聞きました。そもそも遺留分とはどのようなものなのですか?

税理士: 兄弟姉妹以外の法定相続人には、被相続人の意思によっても奪うことのできない相続分が認められており、これを「遺留分」といいます。その割合は、父母等の直系尊属のみが相続人の場合は相続財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1です。

お客様:  そうなのですね。その遺留分が、どのように見直されたのでしょうか?

税理士: 改正前の相続法における遺留分制度は、「遺留分減殺請求権」を行使されれば当然に各遺贈等の対象財産に遺留分割合に応じた権利が生じることとされていました。しかし、遺留分権利者等から不必要な遺留分登記がされるという問題が起きており、これに対処するため、「遺留分侵害額請求権」と名称変更されたのです。これにより遺留分は原則として金銭による代償請求とされ、受遺者等と遺留分権利者が別段の合意をした場合にのみ現物財産に権利を生じさせることになり、取り扱いが大きく変わったのです。

お客様:  仮に、私が遺言で「事業の後継者である長男に全財産を相続きせる」と書いていたとしても、長男が次男や三男たちから遺留分として金銭の請求をされることもあるということか…。

税理士: その可能性はあるかもしれませんね。ちなみに遺留分侵害額請求は、遺留分権利者が、相続が開始したことと遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことの両方を知った時から1年以内に行わなければ時効によって消滅します。さらに、相続開始から10年が経過すれば、事情の如何を問わず遺留分侵害額請求権を行使することができません。

お客様:  その遺留分侵害額請求権になったことによって、今後気をつけなければならないことってありますか?

税理士: 税制においては、遺留分侵害額の請求の規定による遺留分侵害額に相当する金銭の支払い請求があった場合において、金銭の支払いに代えてその債務の全部又は一部の履行として資産の移転があったときは、その履行をした者は、原則としてその履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当する価額により、その資産を譲渡したこととされます。つまり、現物で遺留分侵害額を払うと、その現物を侵害額相当額で譲渡したものとみなされます。よって、譲渡所得税がかかることもありますのでご注意ください。

お客様:  では、遺留分を侵害するような遺言書を書くときは十分注意しないといけませんね。

遺留分支払いには相続税以外の税金がかかることも!?

〈制度改正のポイント〉

  • @ 遺留分減殺請求権から「遺留分侵害額請求権」へ変更された
  • A 遺留分侵害額請求権の行使により生ずる権利が金銭債権化された

〈制度改正のメリッ卜〉

  • @ 金銭債権化することにより、遺言者の意思をそのまま実現できる
  • A 減殺後の共有状態の解消を巡る争いが生じなくなり、相続紛争の早期解決が期待できる

【設例】経営者であった被相続人が、事業を承継する長男に事業用の土地建物(評価額1億円)を、
長女に預金2,000万円を相続させる旨の遺言をし、死亡した。(配偶者はすでに死亡)。
遺言の内容に不満な長女が長男に対し、遺留分侵害額請求をした。

長女の遺留分侵害額

1,000万円=(1億円+2,000万円)× 1/2(遺留分割合) × 1/2(法定相続分) − 2,000万円

〈改正前〉
請求により 1,000万円相当額の事業用土地・建物の持分の1/10が長女に移り、複雑な共有状態になる。

持分割合
長男:9,000万円/1億円
長女:1,000万円/1億円

〈改正後(現行制度)〉
・遺留分侵害額請求権は金銭債権である。この事例では、長女は長男に対し、遺留分の侵害額として金銭1,000万円請求できる。
・長男が金銭の代わりに有価証券や不動産等の現物を渡せば、譲渡所得税がかかることもある。

(法務省資料を参考に作成)


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